昭三が転校して行って、ひと月がたった。

いつも三人一緒だった学校の帰り道が、

また僕と雅彦の二人に戻ってしまったことにも、ようやく慣れた頃、

雅彦が昭三の所に行ってみようかと言いだした。

僕もすぐに賛成した。

昭三に久しぶりに会いたかった。

そう思ったら、いてもたってもいられない。

明日は野球の練習も休みなので、

学校が終わってからすぐ出発することにした。

 

 

昭三は5年生の時、転校してきた。

最初に昭三を見た時、クラス中の誰もが驚いた。

その髪の毛はまっ赤で、肌の色も外人のように白かった。

鼻の周りにはソバカスがたくさんついていて、

どこから見ても日本人には見えなかった。

テレビで見る外人の子どもそのままだった。

そんな昭三にしばらくは誰も話しかけようとはしなかった。

昭三自身、自分から周りに話しかけることもなかったし、

いつも一人で机に座っていた。

時々、他のクラスの子が物珍しさに僕たちの教室にやって来ては、

昭三の顔をじろじろ見ながら、

ニヤニヤ笑ったり、コソコソと何か話していた。

転校してきてからしばらくはそんな日が続いていた。

その日も、昼休みに6年生数人が僕らの教室にやってきた。

そして、いつものように昭三をからかうと、

大きな声でゲラゲラと笑った。

昭三は下を向き、じっとうつむいていた。

その時だった。

「おまえたち、出て行かんやー!!」

誰かが大声で言った。

雅彦だった。

「なんやおまえはー?」

そう言いながら、6年生の一人が雅彦につっかかった。

「ここは、5年生の教室ぞ。6年生は、早よう出ていけ!!」

歳は一つ下でも、雅彦は体格では6年生に負けてはいない。

いや、その時いた6年生の誰よりも雅彦は大きかった。

つっかかってくる6年生を逆に胸で押しのけると、

昭三の前に立ち、ものすごい形相で6年生を睨んだ。

教室にいた他の子たちも集まってきて、

みんなでその周りを囲んだ。

すると6年生は、ばつの悪そうな顔をして教室から出ていった。

 

その日の帰り道、

僕と雅彦は、一人で帰る昭三を見つけた。

最初に声をかけたのは雅彦だった。

それから僕らは美術館の横の中庭で遊んだ。

日が暮れて暗くなるまでずっと遊んだ。

 

 

 

浜の町からバスにのり、小島をぬけて、白木の団地前のバス停で降りた。

転校する時、昭三に書いてもらった地図だけが頼りだった。

しばらく行くと、昭三の家のカステラ屋の看板が見えてきた。

店の中に入ると、昭三のお母さんがいて、

嬉しそうに僕らを迎えてくれた。

だが、昭三はまだ学校から帰って来ていなかった。



とても長い時間が経ったような気がした。

いつまで待っても昭三は帰ってこなかった。

おばさんも忙しそうにしていたし、

時計も5時をとうにまわっていたので、

しかたなく帰ることにした。

「ごめんね。でも、また遊びに来てあげてね。」

昭三のお母さんは、カステラをおみやげに持たせてくれた。

 

僕らは店を出たものの、どうしても諦めることができなかった。

それで、店の近くのガレージでもう少しだけ昭三を待ってみることにした。

待っている間、二人で昭三のことをいろいろ話した。

三人でバスに乗って釣りに行ったこと、

自転車で諫早まで遠出したこと、

学校の近くのお寺の軒下に僕らだけの秘密基地を作って、

それが見つかって叱られたこと。

いろんなことを笑いながら話した。

 僕らはいつも一緒だった。

暗いガレージの冷たいコンクリートの上に座っていると、

秘密基地のことを思い出して、

まるでそこに昭三もいるみたいだった。

 すると突然、雅彦が言った。

「昭三。」

雅彦はじっとその方向を見ていた。

僕も振り返った。

昭三がいた。

遠くから昭三が歩いてくる。

僕は嬉しくなって大声で昭三の名前を叫ぼうとした。

しかし、すぐに雅彦に止められた。

「なんでや? 昭三の帰ってきたとぞ!!」

怒って僕が言うと、

「昭三の顔・・・」

雅彦は言った。

僕は昭三の顔を見た。

昭三は泣いていた。

口をへの字に曲げ、うつむき、肩を震わせている。

悔しいときの昭三の泣き方だった。

僕らはガレージの中で隠れたまま、そんな昭三を見ていた。

昭三は僕らに気付くことなく、そのままガレージの前を通り過ぎていった。

声をかけることができなかった。

すぐそこに昭三がいるのに、見ていることしかできなかった。

すると昭三は店のすぐ近くまで行くと、

うつむいていた顔を上げた。

そして、その顔をシャツでこじごしとぬぐうと、

元気よく走り出し、

大きな声で「ただいまー」と言って

店の中に入っていった。

 

「帰ろう。」

雅彦はただそう言うと一人歩き出した。

僕もそのあとに続いた。

雅彦は何も言わなかったが、

雅彦が思っていることと同じ事を、

たぶん僕も思っていた。

昭三はがんばっている。

一人でもがんばっている。

もう、それだけでよかった。

 

バス停までの坂道を僕らは歩いた。

前を行く雅彦の背中の向こうは、

もうすっかり夕焼けで、

それはまるで、昭三の髪の毛のような

綺麗な綺麗な赤い色だった。